読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

制御性NK細胞?!

今、シカゴ・オヘア空港にいる。私は長旅は嫌いだが、今週と来週の土曜日の講演会に加え、今回はプレシジョン医療を本格的に始動させるために、いろいろな方々とお会いする予定で忙しい。さらに、金沢への日帰りもある。土曜から土曜までの8日間で予定されている会議・夕食会の回数は20回を超える。プレシジョン医療の立ち上げは、私が考えていた予定よりも少し遅れているが、ようやくエンジンがかかってきた。

 

しかし、驚いたのは空港の荷物検査だ。靴も脱がなくていいし、パソコンも鞄から出す必要もない。トランプの影響かどうか知らないが、靴を脱がされるという屈辱的な行為をしなくていいのはいいことだ。これが彼の指示ならプラス10点だ。

 

とここまではよかったのだが、ユナイテッド航空のラウンジは最悪だった。座る場所がないというひどい状況はありえない。係員に聞いても、多くの飛行機が遅延しているからだと説明するだけで、日本のように「申し訳ありません」というわけでもない。「そこで待ってくれ」と言われたので待っていたが、後から来る人たちが勝手に奥まで入って空いた席を占拠するので、いつまでたっても席につけない。15分ほど待ったが、何も言ってこないので、「どないしているんや」(もちろん丁寧な英語でだが)と苦情を言ったら、そこにどうぞと奥にあった席を提供してくれた。この国はこのような国だ。座る席がないならもっと順序立てて案内すればいいと思うのだが、それを期待するのは無理だろう。

 

話を格調高い科学に変えよう。今日は、Nature Medicine3月号に掲載された、制御性NK細胞の話題だ。がん組織内には、がん細胞だけでなく、多くの種類の細胞が含まれていることは、このブログでも何度か紹介してきた。この中にはNK(ナチュラル・キラー)細胞が含まれている。この細胞は、細胞の表面にCD56という分子(リンパ球ではNK細胞に特異的だとされている)を発現している。CD56を持つNK細胞は、がんを殺す役割があると知られているが、がん組織内に存在するCD56細胞の中には免疫の働きを抑える役割を持つものがあるのでは?というのがこの論文の趣旨だ。

 

著者たちは、がん組織から取り出したリンパ球を培養したところ、CD56細胞が多いとCD8細胞(CD4細胞も)が増殖しにくい傾向を見つけ、それをもとにCD56細胞の中に、腫瘍組織内での免疫を抑えている可能性を示したのだ。CD4ヘルパー細胞の中に、免疫を抑える制御性T細胞が見つかったのと同じで、細胞傷害作用があってがん治療に応用されている細胞の中に、CD8細胞などの増殖を抑えている細胞があるというのだから驚きだ。これが本当ならば、NK細胞療法を根底から考え直さなければならないことになる。

 

免疫システムのバランスのとり方は、知れば知るほど複雑怪奇だ。次々と新しい機能を持ったサブグループが見つかり、免疫細胞は一筋縄ではいかないことを再認識した。おそらく、今後ももっといろいろな機能を持った新種が見つかるだろう。ひとつひとつの細胞を詳細に解析することが可能になってきているが、多くの研究者が統一性なくデータを出せば(方法などを標準化していかないと)幻のデータに振り回されかねない。必要なことをするために、必要なシステムを構築するのは、当然のことだが、これにはリーダーシップが不可欠だ。是非、将来を見据えた研究体制の構築を急いでほしい。

f:id:ynakamurachicago:20170317064012j:plain

ムーンショット計画の行方

バイデン前副大統領が久々に公の前でスピーチをして、「私はがんを克服する大統領になりたかった」とコメントをした。そこれ気になるのが、がんの治癒を目指す「ムーンショット計画」の行方だ。計画に携わっている人によると、トランプ大統領も計画の内容自体には肯定的だそうだ。オバマ前大統領の施策を、オセロゲームのように次々と裏返しにしているが、がん克服計画は生き延びそうだ。ただし、「ムーンショット」という名称がそのまま残るかどうかは疑問視されている。

 

私も、今週・来週の講演会では「がんの治癒を目指す」ことをテーマに話をする。今は、がんと診断されても約半数が10年間生存=治癒を期待できる。この50%70%にすることはそれほど難しいことではないと考えている。国の政策を一捻りすれば、実現可能な数値だ。あえて、国の施策と言ったのは、研究者が個々の研究に精を出しているレベルではなく、国家として取り組まなければ、この数字の達成は難しいからだ。

 

キーワードは、がん検診・プレシジョン医療・標準医療を超えた医療への取り組みだ。土曜日の講演会の後、講演内容を数回に分けてこのブログで紹介したいが、今日は、標準医療をどう乗り越えるかだ。抗PD-1抗体(ニボルマブ=日本ではオブジーボと呼ばれることが多い)は腎臓がんでも承認されたが、分子標的治療薬が効かなくなった、あるいは、副作用で治療継続が難しくなった患者さんに対してだけしか投与できない仕組みになっている。

 

臨床試験も、多くの場合、標準的な治療が尽きた患者さんしか登録することができない。自分の意思で抗がん剤治療・分子標的治療を拒否した患者さんは、臨床試験を受けることもできず、自費診療で治療を受ける道しか残されていない。公的機関では、標準治療を拒否すると、その病院での診療を継続することも難しくなる。

 

近藤誠氏の影響で、日本では標準的な抗がん剤治療を拒否する患者さんは10%を超えているようだ。これでいいのか疑問は大きいが、逆の観点で考えると、これらの患者さんは、免疫細胞のダメージがないため、免疫療法の恩恵を享受できる可能性が高い。科学的な考察をすれば当然の帰結なのだが、「標準療法」に命を懸けている医師の多くは、この単純な科学的思考を受け入れることができない。メディアも無責任に抗がん剤治療を批判するのではなく、そろそろ自ら対案を示せばと思うのだが、日本のメディアは、野党と同じように、批判することを生き甲斐にしている人が多く、手遅れになってしまう患者を生み出している自らの瑕疵には至って鈍感だ。

 

自ら勉強した上で、抗がん剤を受けない選択をした患者さんたちも、それではどんな治療法を受けたいと考えているのか、自分の手で考えていく必要がある。近藤氏の言う「がんもどき論」は現在の科学的知見からは逸脱している。がんは放置すれば、早晩、死につながる。闘わない選択は、死を受け入れることに等しい。闘わない選択をしても、痛みや苦しみに我慢しきれず、その時点で闘いを始める患者さんたちもいるが、ボヤであれば消える火事でも、燃え広がれば家を失う可能性が格段に高くなるのと同じで、がん細胞が千億個になってからでは勝てるはずがない。

 

抗がん剤を受けたくない患者さんたちは、是非、自ら、がんとの闘いに勝てる方法を模索して欲しいと思う。

f:id:ynakamurachicago:20170314120301j:plain

東北大震災から6年

2011311日の東北大震災から6年が経った。地震が起こった瞬間、帰宅できずにさまよった多くの人たちの混乱、テレビで見た津波による惨状、南相馬市を訪問した際の驚くべき風景、避難所で目にした現地の人たちの忍耐強い生き様、それらは忘れとしても忘れることができるはずがない。そして、人を大事にしなかった政府の無策は、今でも憤りを感ずる。

 

私が最も気にかけているのは、30万人にも及ぶ津波サバイバーの方たちの生活だ。この方たちの生活を支援し、健康に留意をすることが最重要だと思った。生活を取り戻すためには、交通網の整備や箱モノの整備も大事だが、家族を失い、友人を失い、家も失った人たちの心を支援することが十分に行われていたのか、今でも疑問が残る。私自身、もっと彼らのために何かすることができなかったのか、今でも自問自答しているが、答えは見つからない。

 

いずれ日本に戻った時には、南相馬市の人たちのために、何か貢献したい

f:id:ynakamurachicago:20170312000802j:plain

 

制御性T細胞を利用した・標的にした治療

火曜日の内科の学術講演会は「制御性T細胞」を利用した、あるいは、標的にした治療の話だった。免疫反応は、必要な時に活性化され、細菌やウイルス感染を抑えるが、不必要になると免疫反応のスイッチをオフにする必要がある。活性化と抑制の微妙なバランスが保たれている場合は健康に生活できるが、バランスが崩れるといろいろな不都合が起こってしまう。

免疫が働かないと、感染症にかかりやすくなる。たとえば、抗がん剤治療の副作用で白血球が減ると、感染症に要注意だ。逆に、自分の細胞に対する免疫が強く働くと、自己免疫病が発症する。がん細胞に対しては、免疫がきっちりと働けば、体から排除することができるが、がんは免疫細胞の攻撃から逃れるためにいろいろな仕組みを働かせて、生き延び、広がり、転移して死に至らしめる。

このがん細胞に対する免疫を抑えている要因のひとつが制御性T細胞だ。制御性T細胞は、がん組織では、がん細胞を守る番人の役割をしている。この制御性T細胞は、細胞の表面にCTLA-4という分子を持ち、これががんを攻撃しようとするリンパ球の働きを骨抜きにしている。そこで考えられたのが、抗CTLA-4抗体であり、制御性T細胞を押さえ込むことに寄って、患者さんに一定の効果が認められている。しかし、がん組織に存在している制御性T細胞の働きだけを抑えるのではなく、全身に存在するすべての制御性T細胞を抑え込むため、不必要な部位でも免疫が活性化され、自己免疫病のような副作用が発生する。これは、原理上仕方のないことだ。

そこで、検証されているのが、EZH2というメチル化転移酵素の働きを抑える分子標的治療薬だ。この酵素の働きを抑えると、自己免疫的な反応がなく、がん組織の制御性T細胞を選択的に抑えると話をしていた。なぜ、がん組織特異的なのか、理由がよくわからなかったが、がんの周辺にいる制御性T細胞ではEZH2がより活性化されているのだろう(と想像するしかない)。これが、本当なら、抗体医薬品より安全で、安価に(?)治療薬として利用できるかもしれない。

そして、制御性T細胞を利用したⅠ型糖尿病治療の紹介もしていた。Ⅰ型糖尿病というのは、自己免疫反応によって膵臓のベータ細胞(インスリンを作る細胞)が破壊されることによって起こる糖尿病で、日本には少ない。子供に多く、インスリンが作れなくなるので、一生インスリン治療を継続しなければならない厄介な病気だ。最近、祈祷師がインスリンを打たなくとも治るとか言って、両親がインスリン投与を中止し、7歳のⅠ型糖尿病の子供が亡くなるという不幸があった。いい加減な祈祷師は問題だが、私は医師から説明を受けていたはずの親の責任の方が大だと思う。

話が逸れてしまったが、Ⅰ型糖尿病の発症初期に、患者さんから取り出した制御性T細胞を取り出して増やし、患者さんに戻す臨床試験が始まっている。他の自己免疫疾患への応用も開始されているようだ。日本では、まず、できない試験だ。なぜできないのか、それに対する回答を見出し、その対策ができない限り、日本発の医療イノベーションへの期待もできない。しかし、日本では時がゆったりと流れている。

2-3日前に、「北朝鮮が在日米軍基地を攻撃すると脅しているが、日本は大丈夫か」と私の研究室にいる人が不安そうに私に話しかけてきた。日本ではあまり話題になっていないと返答すると驚いていた。ミサイルの落下地点は、日本の排他的経済水域だ。自分の庭先に火炎瓶を投げつけられたようなものだが、日本は相当に鈍感だとしか思えない。今や、日本では私立小学校の話題で持ちきりだ。もし、トランプ政権が北朝鮮を攻撃した場合、日本は必然的に巻き込まれる。その時、どうするのか、真剣に考えて欲しいものだ。

そして、医療、がん対策、国として喫緊の課題も多いはずだ。ネットニュースを読む限り、太平の安眠を貪っているようにしか感じないのは私だけか?

f:id:ynakamurachicago:20170310035547j:plain

 

がん細胞の異質性とがん治療薬の選択

まず、初めに、先週の土曜日に、総アクセス件数が200万回を超えたことをお礼申し上げます。実は、この数字を区切りにブログに一区切りつけようと考えてきました。しかし、リアルタイムで起こっていることを正確にわかりやすく伝えていくことが重要だとアドバイスを受けました。私の情報がどこまで役に立っているのかは疑問ですが。また、個人の問題として、自分の口から正しい情報を発信する場を持つことの必要性を再認識することが起きました。「シカゴ便り」がいつまで継続できるのかは不確実な状況ではありますが、シカゴに滞在している間は、「シカゴ便り」を発信し続けたいと思いますので、引き続き、ご愛読ください・

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

シカゴは気温が激しく変わり、先週金曜日の最低気温マイナス7度から、昨日は最高気温16度と、3-4日ごとに初夏―冬―初夏を行ったり来たりだ。今日も暖かいが、今週末の天気予報は雪だ。

医学研究の場でも、考え方が左右に大きく触れることも少なくない。がん細胞の異質性が熱く語られたこともあったが、今は、静かになっている。私は以前から、がんを生物学的に考えるには「がん組織内部の細胞の異質性、あるいは、同一患者内の別々の転移巣の異質性」は重要だが、臨床的な観点では、これに拘ってもあまり意味がないと主張してきた。がんが1センチになると細胞数は約5億個となる。日々細胞分裂を繰り返しているので、その間に新たな遺伝子異常が加わったり、場合によってはなくなることもある。5億個に増えるまでには、多くの変化が加わっているので、1センチになれば、遺伝子異常の観点からは5億個が全く同一の性質(遺伝子異常を持つ)の集団であるはずがない。

ましてや、体中に広がった転移巣ではがんの(遺伝子異常から見る)性質が異なっているはずだ。これを根拠に、一部の研究者は、「分子標的治療薬を投与する場合、バイオプシーなどで調べても、その結果がその患者の全体像を反映しているかわからないので要注意だ」のなどと口角泡を飛ばして主張してきた。日本の野党と同じで、何か足らないことを批判しているだけで、だからどうするのだという対案が全くない、お粗末な話だ。科学の世界においては、批判する人は、その批判に対する対案が提示できて一人前と認識される。「・・・・・すべき」というのは簡単だが、研究試料の入手が困難(不可能)であったり、技術的に無理であれば、批判する側の見識を問われることになる。

このがんの多様性で言うと、「体全体に5ヶ所の転移巣がある。それぞれの転移部位のがん細胞の性質が異なる(異質性の)可能性があるので、すべて調べるべきだ」と愚かな研究者は主張する。これは大きな矛盾をはらんでいるのだが、それが理解できない。この発言の問題点は、5ヶ所の大きながんの塊のごく一部をバイオプシーで取ってきて調べても、採取してきた、そのごく一部が、塊の全体を反映していない可能性がある。がんの塊が大きくなると、塊の中自体に遺伝子変異の異質な細胞が含まれているからである。そして、もっと大きな問題点は、バイオプシーそのもののリスクだ。組織を取ると多かれ少なかれ、出血が起こる。肺であれば、空気が肺の外に漏れて、肺と胸腔に間に貯まり(気胸)、呼吸困難を興すこともある。すべての転移部位からバイオプシーをとることなど実臨床ではほぼ不可能だ。シカゴ大学のバイオプシーのコストは90万円位するので、研究としても非現実的だ。

臨床現場では、患者さんのリスクを最大限に優先しつつ、得られた情報でベストを尽くすしかないのだ。臨床現場を知らないで、青臭い理屈を述べても医療現場や患者さんは混乱するだけだ。そして、異質性議論にがあまり価値のないであろうことを、ジョンスホプキンス大学のVogelstein博士のグループが報告した。Nature Genetics3月号に「Limited heterogeneity of known driver gene mutations among the metastases of individual patients with pancreatic cancer」というタイトルの論文を公表した。この中で、(1)がん化に直接関与するドライバー変異(遺伝子異常ががん細胞の増殖を促す原因となっている変異)は、転移部位にも共通して見られること、(2)パッセンジャー変異(運転手という意味のドライバーに対して、単なる乗客という意味。たまたま、がん細胞に乗り合わせているが、がん細胞の増殖には関係しない変異)では転移部位ごとに違いのあること、しかし、(3)遺伝子変異全体を比較すると、かなり似通っている、と述べている。

 

分子標的治療薬の多くは、ドライバー変異を標的としているので、治療薬選択の際に、必要以上に異質性にこだわる必要はないと思う。ただし、ある治療薬で治療を続けていると、その薬剤に耐性を示すがん細胞が生き残り、増えてくるので、治療前後ではがん細胞の性質が大きく異なってくる可能性は高い。世の中には、ベストでないことを理由に、現在の治療よりもベターな選択肢を否定する人が少なくないが、現実の医療を考えるとこのような人たちの姿勢には疑問を覚える。

 

新しい(免疫)治療は標準治療をすべて終えてから、と信じて止まない医師が多いが、毒性の高い抗がん剤治療が効かない段階となって初めて免疫療法を提供するのは、どう考えても非科学的だ。自国の攻撃兵器を自ら破壊してから、他国に戦闘を仕掛けるようなものだ。標準療法というお題目を守るのを生きがいにするのではなく、どうすれば患者さんによりよい治療を提供できるのか、もっと科学的な議論があってもいいと思う。

f:id:ynakamurachicago:20170307044431j:plain

二重特異性抗体??による白血病治療

暖かい2月が終わった途端に急に冷え込み、昨日と今朝は雪が舞って、冬に逆戻りだ。気温は平年並みになっただけなのだが、体は、暖かさに鈍ってしまったのか、ついていけない。明日の朝はマイナス7度まで下がり、月曜日は19度まで温度が上昇する。ジェットコースターのような気温の変化だ。 

前回のブログは反響が非常に大きかった。3日間のアクセス件数は1万回を越えて、普段の1.5倍程度になった。静かな解説よりも、感情的な文章の方が面白いようだ。私は、読者の皆さんに、まずは、がん医療の進歩、そして、米国での日常をお伝えする意図で書きはじめたのだが、すでに3年弱が過ぎた。おそらく明後日あたりに、総アクセス件数が2百万回を越える。

怒りのブログを書いたので、「血圧は上がっていないでしょうか」と心配する声や「感情的な文章を諌める」メールが友人たちから寄せられたが、文章にして発信すると意外とすっきりするものだ。メディアは自分たちへの批判を嫌い、まず、訂正するがことがない。裏取りをしない記事を書くことは、メディアの人間として厳に慎むべきことなのだが、このような記事は今回が初めてでないので、あきらめるしかない。10年以上前に、理化学研究所のセンターが、裏取りをしない記事で中傷された時、猛烈に抗議をしたが絶対に訂正はしなかった。

メディアは批判をされると面白くないだろうが、無責任なことを書かれた当事者はもっと面白くないのだ。非道極悪人のように叩いていた「XX容疑者」が、起訴猶予になったり、無罪になると、即座に「XXさん」と呼び出すのは、滑稽だ。有罪の判決が下されるまでは、「推定無罪」の原則のはずだが、福島県の産婦人科医など、どこまで傷つけられたのか、少しは他人の人生に心を寄せて考えて欲しいものだ。メディアの報道姿勢に苦言を呈し続けているがメディアの辞書には「子曰、過而不改、是謂過矣」「過ちて改めざる、是を過ちという」言葉は載っていないのだろう。 

また、話が逸れたが、原点に返って、今日は新しい治療の情報を紹介したい。今日の「New England Journal of Medicine」誌に「Blinatumomab versus Chemotherapy for Advanced Acute Lymphoblastic Leukemia」というタイトルの論文が掲載されていた。この論文では、CD19という分子が作られている急性リンパ性白血病患者405名が対象だ。271名に対してBlinatumomab(B群と呼ぶ)が投与され、134名に対しては抗がん剤治療(C群と呼ぶ)が行われ、比較された。f:id:ynakamurachicago:20170303103148j:plain

まず、Blinatumomabについて紹介する。これは人工的に作られた二つの分子に結合する性質を持つ抗体だ。この抗体医薬品は、Tリンパ球で作られるCD3という分子とがん細胞に特異的なCD19という分子に結合する。CD19という分子はがん細胞に特異的な分子ではなく、Bリンパ球に特異的な分子である。この抗体医薬はB細胞から派生した白血病細胞(CD19陽性白血病細胞)とTリンパ球をつなぎ合わせることによって、リンパ球の白血病細胞に対する反応を引き起こすように設計されたものである。

さて、結果だが、生存期間中央値は、B群では7.7ヶ月、C群では4.0ヶ月で倍近くとなる。治療開始12週後の完全寛解率(+血液細胞が完全に正常化している)はB群では34%、C群で16%と報告されていた。寛解持続期間の中央値は、B群で7.3ヶ月、C群で4.6ヶ月だ。グレード3以上の有害事象発生率は、B群で87%対C群92%だった。確かに有効率は、統計学的な差があるのだが、この数字は正直厳しい。しかし、新しいアプローチによる予後改善は明らかだ。もっと早い段階で利用すれば、もっと効くかもしれない。いずれにせよ、挑戦し続け、課題を克服するしか、進歩はないのだ。

医学の進歩は、このようにひとつひとつ階段を上っていかなければ、頂上にはたどり着かない。油断すれば、真っ逆さまに転落する。自分で歩くと、その厳しさは予想をはるかに上回るものだった。研究もビジネスも同じで、厳しさに耐えながら前に歩み続けるしかない。オンコセラピーサイエンス社は、患者さんに優しくてよく効く薬を生み出すために設立した会社だし、この基本理念を貫くことが会社のすべてだ。

f:id:ynakamurachicago:20170303103002j:plain

ふざけるな日経バイオ;勝手な記事を書くな!(+その後)

オンコセラピーサイエンス社を通して抗議したところ、下記の返答がきたとのことだ。

(1)辞任した場合には、辞任した側の話を聞けば十分

驚きの回答だが、これが日経の方針だそうだ。会社関係の皆様、この言葉を重く受け止めて対応する必要があります。私が医療イノベーション推進室長を辞めた時、当時の官房長官は「給料がいいからアメリカに行くのでしょ」と私にとっては腹立たしいコメントし、それが記事になった。この場合、辞めた側(私)のコメントはありません。見事な二重基準ですね。メディアに対する不信はこのようにして醸成されるのです。

しかし、会社を辞任しようとしている人、辞任するかもしれない人にとっては朗報です。あなたの言い分だけを記事にしてくれるメディアがあるのです。大いに活用しましょう。

(2)すでに私の下記ブログの批判があったので、削除するとそれが理由と思われる。すでに掲示板に出ているので、ブログでの批判は消えない。

これは、明確な問題のすり替えで、私が闘っている新聞社と同じロジックだ。一端、新聞やテレビで流されると、多くの読者は、それを真実と信じてしまう。記事が正しいかどうかの問題と記事を批判した文章が公開されているかどうかは、別問題だ。新聞社などメディアは他人の不祥事に対して、自己反省を押し付けるが、自社に不祥事があっても自社に寛容だ。しかし、上記のように辞任した側だけのコメントを掲載する編集方針とのことだから、このメディアはそのような方針ということを心しておけばいい。そして、昔と違って、SNSで反論することができるということをメディアも心して欲しい。

なんだか、トランプ大統領のメディア批判が乗り移ったような気持ちになってきた。大統領とメディアの対立は、立場上よくないと思うが、取材拒否したくなる気持ちは私にはよくわかる。メディアは知る権利があると主張するが、勝手に何でも書いていい権利はないはずだ。歌手の覚せい剤事件、俳優の暴行事件、医師の暴行事件、逮捕された時には「これでもか、これでもか」と立ち直れなくなるくらいに集中砲火を浴びせ、起訴猶予になると知らんぷり、これがメディアの本質だ。

^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^

日経バイオオンラインが、「同社(オンコセラピーサイエンス社)は20147月、創業者で特別科学顧問の中村祐輔米Chicago大学医学部教授と当時の社長との意見が合わなかったことで社長が辞任し、その後同年9月まで山本氏が社長を務めたことがある」との記事を発信した。私も、突然、トランプ大統領の心境になった。

 

いったい、何を根拠に当時の社長の辞任理由としてこんな記事を書くのか!私は何も取材されていないぞ!それとも誰かの言い分を勝手に記事にするのか。いつから、メディアは、確証もない記事を勝手に発信するようになったのだ。

 

こんな無責任な記事を書いて、読者に配信するな。