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Fact とAlternative Fact

雑事

トランプ大統領誕生から20日ほどが経ち、米国では「Alternative Fact(別の事実)=多くの場合には嘘」あるいは「Fake News(嘘のニュース)」という話題が盛んに取り上げられている。前者は、トランプ大統領の就任式への参加人数について、報道官が「史上最大の参加者数だった」という間違ったコメントを強弁して批判を受けたことに対して、トランプ氏側近が「Alternative Fact」と主張して擁護したため、火に油を注ぐような事態が生じ、この「別の事実」が一躍流行語のようになってしまったのだ。日本を騒がせたSTAP細胞事件も、本人が非を認めない「Alternative Fact」の実例だ。異なる側面から物を見ることと、嘘との境界がなくなってしまったかのような不思議な感じがする。

そして、自分の言ったことが真実だと頑迷に主張する姿を見て、大統領選挙に投票した人たちはどう感じているのか、是非、知りたいものだ。ただし、シカゴの危険な現状に対する批判に関しては、トランプ大統領のコメントに大賛成だ。昨日は、戦争状態にある中東よりもシカゴの方が、発砲事件が多いと批判していた。これが事実かどうかは疑問符がつくが、昨年1年間でシカゴでは4000人が射撃され、殺人は760名を超えている。1日に10人以上が発砲を受け、2名以上が殺されている。これが一部の地域に集中しているのだから、これらの地域では中東の危険地帯に匹敵するくらい危険なのかもしれない。

トランプ大統領は、“Whether a child lives in Detroit, Chicago, Baltimore or anywhere in our country, he or she has the right to grow up in safety and in peace. No one in America should be punished because of the city where he or she is born(デトロイト、シカゴ、ボルティモア、あるいはその他の地域であっても、子供は安全に平和に暮らす権利がある。アメリカに暮らす人は、生まれた場所ゆえに不幸が起こることがあってはならない)”とコメントしたようだが、その通りだ。シカゴ市がコントロールできないなら、連邦政府がコントロールしてやろうかと発言しているが、できるならやって欲しいと思う。安全に暮らすことが空気のように存在している日本では、安全にはコストがかかることはあまり理解されていないだろうが、安全の確保にはそれなりの予算が必要だ。

しかし、これらの発言の場でも、「Alternative Fact」を持ち出していることが心配だ。「この45年間で殺人事件の発生頻度は最も高い」と言ったようだが、これも正しい事実(Fact)ではない。確かに危機意識を煽り、犯罪を削減することを主張するための道具に使っているのだろうが、これでは自分の主張のために事実を捻じ曲げる朝日新聞と同じだ。根底となる事実が間違っていれば、主張そのものの論拠を失い、主張していることへの賛同が得にくくなるのではないだろうか。

 

最近は、私のもとを訪ねてくる多くの方が、シカゴは安全でしょうかと聞いてくる。答えはイエスでもあり、ノーでもある。特定の地域に行かない限り安全だが、間違って特定の地域に踏み込むと非常に危険だ。ダウンタウンから大学当たりにかけては安全だが、西部・南部の特定地域は絶対に行くべきではない。東京や大阪では、こんなことは気に留めなくていいが、ここではそうはいかない。

夜でも安心して歩ける治安の良さ、安くてアクセスが簡単な医療、便利な公共交通など、日本では意識しないことで、日本の素晴らしさを実感している。安定した経済がこれらには不可欠だが、明日からの2日間、ワシントンとマイアミでどんな会談がもたれるのか、少なからず不安でもある。

2016年度に米国FDAによって承認された新規薬剤

医療(一般)

2106年度に承認を受けた新規薬剤のリストを下記にまとめた。ニボルマブ(抗PD-1抗体)などの適応拡大(2017年2月2日には膀胱がんに対して承認された)は進んでいるが、これらの適応拡大されたものはこのリストには含まれていない。全く新規の薬剤としては、2016年度に22品目が承認されている。(黄色で示したものは抗腫瘍薬)

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がんに対しては、新たに4品目であり、免疫チックポイント阻害剤として3種類目のPD-L1抗体が含まれている。これも、他のがん種への適応拡大が進むのが確実だ。これ以外にも、PDGFR(血小板増殖因子受容体)に対する抗体医薬品が軟部腫瘍に対して承認を受けている。あとの2品目は、分子標的治療薬で、PARP阻害剤は乳がんや前立腺がんにも広がっていくだろう。

クロストリジウム・ディフィシル菌感染症は抗生物質などを多用しすぎて、普段腸管内にいる細菌が殺された結果起こることが多い。下痢などの症状が起こるが、医師がこの病気のことを知らないと単なる腸炎として治療を続けるため、症状が改善しない。人間の体は、消化管に存在する多様なバクテリアと仲良く付き合っていかなければいけないのだ。米国の現状を見ていると、多様性の価値が過小評価されているように思えてならない。

しかし、このリストを見ると、感染症、免疫疾患、筋変性疾患まで多くの領域で画期的な新薬が開発されているのがよくわかる。それにしても、このブログでも綴っているように、医薬品開発に関する日米の差は如何ともしがたいものがある。

基本的には現状に対する危機意識がないのだと思う。「何が問題なのかわかっていない人には、問題を解決できるはずがない」のだが、最近話をしていて、こんな人によく出くわす。マークシート方式の試験の影響かもしれない。少しでも経験した問題には対応できるが、経験したことのない問題には、思考が働かないのだろう。

日本は明治維新以後、欧米の医療を輸入する形で、医療を進歩させてきた。その環境では、輸入を真っ先にして、日本で一番であれば、お山の大将でいられたのだ。欧米の背中が見えるポジションで走り続けていれば満足していられたのだ。しかし、医薬品の輸入超過が2年連続2兆円超でも、現状の方策でいいと考えているのが不思議でならない。もし、危機意識はあるのだとしても、講じている対策は明らかに不十分だ。

多様性と国家安全保障の狭間で

雑事

トランプ大統領の大統領令と連邦地裁・控訴裁の違憲判断で、米国の入国管理体制は混迷を極めている。私の米国入国に際しては全く問題なかったが、しばらく混乱は続くだろう。しかし、大統領の権限が、ここまで強いとは知らなかった。まさに、大統領令で、何でもありといった感がある。表面的には米国の多様性と国家の安全保障の対立のように見えているが、これまでオブラートに包まれていた複雑な要因が一気に顕在化してきたのかもしれない。

 

大学という環境は、最も多様性に富んだ環境である。それに関連して、先日、フォーブスが最も国際性に富む大学ランキングを公表した。第1位と第2位はスイス工科大学のチューリッヒ校、ローザンヌ校、第3位香港大学、第4位シンガポール国立大学、第5位インペリアルカレッジ・ロンドン校と続く。このランキングは、学生に占める留学生の比率、外国人職員の比率、国外研究者との共同研究などを評価したものであるので、ヨーロッパ各国、特にスイス、イギリスなど、そして、人口は少なくて国外からの留学生を多く受け入れている香港・シンガポールは有利だ。

 

それにしても、国際性に関する日本の大学のランキングは、悲しくなるほど低い。150位までに4校入っているが、最高位が東京大学の136位で、以下、筑波大学141位、東京工業大学143位、東北大学149位と続く。日本の大学は留学生の割合も外国人職員の割合も極めて低いので、当然と言えば当然だが、国際化の掛け声はどこにかき消されたのだろうか?東南アジアの学生にすれば、教育の大半が日本語で行われるので、将来的なことを考えれば、どうしても英語圏で教育を受けたくなる。東南アジアの学生にとって、香港・シンガポールといった場所は、英語で教育を受けることができるので、教育内容に差がなければ、東京大学よりははるかに魅力的だ。そして、それに伴って優秀な学生が集まるため、総合的な大学ランキングにも反映されるようになったため、香港大学やシンガポール国立大学が、日本よりも上位にランキングされる結果につながっている。

 

「国際化」と称しながら、「国際化」が遅れている原因を特定し、問題点を解決するための具体案を立てない限り、「国際化を目指す」といったおまじないのような掛け声だけでは、現状は改善されないだろう。国際化には、複数の省庁が関係するが、このようなケースでは必ずといっていいほど、各省庁の利害が絡み、文言の細かい部分での凌ぎあいが続く。私が読んで「どこが違うねん??」と思っても、「て・に・を・は」の使い方ひとつで、行間の意味が違ってくるようだ。役所言葉は難しい。しかし、たとえば、大学などでは、具体的な目標として、授業を英語で実施するようにすればいい。英語で講義ができる職員にはインセンティブをつければいい。もちろん、国際的なランキングなど全く無視して、日本が現在のように鎖国化したような教育政策を取り続ける選択肢もありうる。

 

私は、色々な意味で国際性を高めることは大切だと思う。日本の分化や歴史をしっかりと語れる人が増えてくれば、その人たちを通して日本への理解がもっと広まり、日本に対する誤解も少なくなるだろう。日本の良さを知ってもらうのは、日本人自身の役割だ。そして、アジアやアフリカからの留学生や労働者にもっと魅力的な環境を作り、日本滞在を満足で有意義なものにすれば、長期的には必ず、日本にとって大きな財産となるはずだ。

 

メキシコとの壁、入国管理、貿易協定など、不確実性が高まってきたが、今週開催される日米首脳会談から目が離せない。

 

PS:フェニックスオープンのプレーオフをドキドキしながら見ていたが、4ホール目でバーディーを取り、松山英樹選手が勝利した。やはり、日本人が勝つと誇りに思う。それにしても、松山の強さは本物だ。

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プレシジョン医療・人工知能の可能性とそれに挑む覚悟

医療(一般)

今、羽田空港にいる。2日間で10を超える会議・会食に参加して、少々くたびれた。多くの人と話をしたり、昨日のがん研究会とフロンテオヘルスケアとのプレス発表に参加して、「プレシジョン医療」という一言だが、人によってその意味するところは、かなり差があると実感できた。

 

オバマ前米国大統領が「プレシジョン医療」イニシアチブを宣言してから、オーダーメイド医療や個別化医療という言葉は、かき消され、猫も杓子も「プレシジョン医療」という言葉を使うようになった。私も一匹の猫になってしまったので、偉そうに言える筋合いではないが、少なくとも「プレシジョン医療」に込めた思いはわかっていると思う。

 

「プレシジョン医療」イニシアチブは、医療全体の仕組みを変える取り組みである。もちろん、ある薬を特定に遺伝子異常に基づいて投与するのも「プレシジョン医療」の一環ではあるが、「必要な治療法(あるいは予防法)を必要な患者(個人)に必要な時に、いつでも届けられる」医療体系の構築を目指したものだ。

 

この観点では、がんの専門家よりも、一般の患者さんの方や医療従事者以外の方が、全体像をすんなりと受け入れてくれるような気がする。専門家の多くは、保険診療の枠内で治療をすることがすべてと考えている。患者さんや家族が、必死で海外の信頼できる情報にアクセスし、それを医師にぶつけても、話が通じないことも少なくない。情報がオーバーフローする中で、正しい信頼に足る情報を選り分け、それを患者・家族だけでなく、医療従事者にも共有できるようにするのは、非常に困難な時代になっている。ビックデータを利用するのではなく、信頼に足るデータだけを選ぶことが今の課題ではないのか。そして、その役割を担うのが人工知能だ。

 

しかし、白と黒をまぜると、灰色になるように、今のようなビックデータを解析することを売りにする方法では、正しい色が見えてこない。コンピューターに学習機能があっても、元になるデータが不正確では正しい答えが見えてこない。1+1=5と記したデータが20回でてきて、1+1=2と記したデータが5回しか検索されなければ、コンピューターは2には正解と判断できるはずがない。基本となる正しい情報が教えこまれていなければ、正しく学習することなどできないのだ。

 

医学研究では再現性のないことが少なくないと指摘されている。単純な間違い、研究者の知識不足、不適切な研究手法に加え、悪意のある改変など多くの原因があるが、誤った情報が氾濫している。玉石混交の中で、玉を選ぶこと、すなわち、専門家が基盤となる「正しい」情報を教え込ませるところからスタートしないと、優秀な人工知能を作り上げることは難しい。

 

人工知能・プレシジョン医療の世界は、大海のように大きな可能性が広がっているが、その世界で生き残っていくには、大きな覚悟が必要だ。

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胸に刺さったナイフ

雑事

今、オヘア空港にいる。35日で日本に戻るためだ。プレシジョン医療実現のための活動の一環だ。日本が世界から取り残されないように、前進あるのみだ。

 

患者さんとの連携を呼び掛けてから、患者さんや家族からの問い合わせが増えた。多くは、もう何もないと医師から見放された患者さんとその家族からである。保険診療の中で利用できる治療法や治療薬が何もないということと、実際に何もすべき手段がないということは同じではない。インターネットを検索すれば、米国で承認を受けたが日本では未承認の治療薬、研究段階の治療法、探索的に始められた治療法など、たくさん見つけることができる。

 

もちろん、白衣を着た詐欺師は、そのような中で、しっかりと自分の存在感を誇示している。残念ながら、インターネットは情報の氾濫状態であり、詐欺師は甘い囁きが得意なので、いったん引っ掛かってしまうと、蜘蛛の巣にトラップされた蟻のように罠にはまってしまう。

 

公的なデータベースが、信頼できるデータを選択して公開していれば問題はないが、標準療法を超えた情報を提供できではいない。情報公開すると、標準療法がすべての彼らの方針に反するだろうし、情報提供しても、その治療法を提供できなければ、自分たちのふがいなさをさらけ出してしまうからだ。しかし、国民には、患者さんには、家族には、標準療法として確立されるまで待てるだけの時間が残されていないのだ。国には、研究段階のものをもっともっと提供する責任があると思う。生きる権利は、憲法で保障されているはずだし、米国ではできるが、日本ではできないというのは、国として恥ずかしいことではないのか!?

 

と言いながらも、心にぐっさりとくる問い合わせがあって、気持ちは沈んでいる。滑膜肉腫の子供さんを持つご両親から、私たちが開発した抗FZD10抗体についての問い合わせがあったのだ。同類の問い合わせは、初めてではない。以前はフランスで治験をしていた時のことだった。治験を始めてから、フランス人しか、治験にエントリーできないことを知った。日本人が作った薬の治験に、日本人が参加できないのはどうしてなのかというお父様の問いに、胸が詰まり、返事の言葉が浮かばなかった。ナイフを心臓に突き立てられたような思いだった。もちろん、突き刺さったナイフは、そのままだ。

 

自分たちだけの努力ではどうにもならないレベルの問題だとはわかっていても、どうしてこんなに時間がかかるのか、誰かを責めたくなってしまう。特に、現場にいる人たちが口先だけに見えてくると、怒りを抑えるのが苦痛となる。今回の問い合わせは、私に責任という重荷を再認識させるには十分だ。

 

自分の手を離れてどうにもならないという言い訳を捨てよう。水攻めや鞭打ちのような野蛮な行為で人は動くはずもない。気持ちが通じ合う人たちを集めて、物事を前に進めるように動けばいいのだ。抗体薬が使えなくとも、ネオアンチゲンを含めたがんワクチン療法、T細胞療法など、可能性のある治療手段を提供することはそれほど難しくはない。国が支援しなければ、民間で推進すればいいと思うし、仲間を集めて、それを早く実現したい。

 

これから13時間のフライトだ。飛行機の中で、じっくりと案を練ろう!

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オバマケア法案廃止?+医薬品貿易赤字2兆円超

医療(一般)

今日の「New England Journal of Medicine」誌に「Repealing the ACA without a Replacement — The Risks to American Health Care」(オンラインでは16日公開)というタイトルの論文が掲載されていた。ACAとは“Affordable Care Act“、通称、オバマケア法のことである。著者はオバマ前大統領(オンラインでの公開時には現職大統領)自身である。共和党は春までにオバマケア法を廃止にする方向を公表しているが、それを憂慮したものである。

 

この論文は、代替案を用意することなく、この法律を廃止にした際の社会的混乱を指摘している。この中で、オバマケア法案は医療の質を向上しつつ、医療費の増加率を抑えたと述べていた。日本では保険収載されれば、国内どこでも、同じレベルで治療を受けることができるが、米国では加入している保険ごとに、保険でカバーされる医薬品が決まっているため、FDAが承認すれば誰もが保険でカバーされるわけではない。

 

最大の問題は、people with preexisting conditions may fear losing lifesaving health care that may no longer be affordable or accessible”とあるように、すでに何らかの病気に罹患している場合には、保険加入を拒否されたり、保険料が高額になる可能性があるのだ。この観点で見れば、日本の医療保険制度は実に素晴らしいものだ。日本人は、空気が存在しているのと同じレベルで、医療保険の存在を当然のものと考えているのかもしれないが、米国に住んでみると、日本の医療保険制度は信じがたいほどに充実しているのだ。私は、シカゴに来て5年間、病気で病院やクリニックのお世話になっていないが、歯科医を受診するたびに日本の制度との格差を意識せざるを得ない。代替案のない状況で、オバマ法案の廃止だけを先行することには、共和党内でも躊躇する声があり、このまま法案廃止だけ決定されるのかどうか不透明な情勢だ。

 

そして、日本の医療保険制度に大きな影響のある、日本の2016年度の医薬品貿易収支について紹介したい。財務省から、2016年度の貿易統計速報値が発表された。日本全体の貿易は黒字総額が4741億円であるのに対して、医薬品は22759億円(輸出4901億円、輸入27660億円)の赤字である。原油や粗油の輸入額が55340億円であるので、医薬品の輸入額は、原油の半分と同じレベルの額に達する。図は1988年以降の医薬品の輸出入の推移を示している。前年度に比べれば少し改善しているものの、2年連続で貿易赤字額2兆円を超える状況である。7年連続の1兆円を越える輸入超過である。この統計に個人で並行輸入しているものが含まれているかどうかわからないが、もし、含まれていないなら、この額はさらに膨らむ。

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日本の医療費は約40兆円であるので、医薬品の輸入額は7%近くになり、医療費の7%が医薬品代として海外に流出していることになる。問題は、このままの状況が続いても、医療保険制度を維持することができるかにかかっている。薬剤費は総医療費の約4分の1に相当しているので、「必要な薬剤を、必要としている患者さんに届ける」というコンセプトが臨床現場で確立されれば、医療費の増加を抑制するに違いない。

 

特に、抗PD-1抗体など効果があると騒がれているが、70-80%の患者さんには無効であり、世界全体で考えると数兆円もの薬剤費が無駄に使われている状況だ。適応となるがん種が広がれば広がるほど、救われる患者さんが増えることにつながるものの、その一方で全く効果がなく使用されるという無駄が広がる。高額療養費制度がある日本では、無駄の大半を税金で賄うことになる。これらが、医療保険制度を圧迫し、保険制度を破綻に導くことにつながる。

 

医療も安全も、決して対価を払わずに得られるものではない。米国の核の傘の中で、全く非現実的な非武装議論をしたきた人たちも、メキシコに対して起こっている現実を見れば、もはや、綺麗ごとでは済まなくなっている事態を否定できないだろう。誰もが選挙キャンペーンで終わると思っていたことが、現実の世界で起きようとしている。もし、日本から米軍が撤退して、力の空白が生まれればどのような事態が生ずるのか、考えると恐ろしくなる。医療も同じだ。きれいごとでなく、国民が医療の現実を見据えて議論すべき時なのだと思う。

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若い乳がん患者パートナーの心理状態?

医療(一般)

シカゴは1日だけ晴天で異常に暖かい日があったが、翌日から、また、どんよりとした気持ちが落ち込むような天気が続いている。プレシジョン医療を推進するために、日々、仕事に追われて疲れているので、せめて天気くらいはすっきりして欲しいと思うが、今週一杯は太陽を目にする事はなさそうだ。気温は比較的高いが、この曇天続きは勘弁して欲しい。

Forbes40歳未満で乳がんの診断を受けた患者(ステージや受けた治療についての説明はなし)のパートナーの心理状態に対する意識調査に関するニュースがあった。調査に回答した289名の女性乳がん患者パートナー(284名は男性、5名が女性)の42%が何らかの不安を抱えているというものだった。ボストンのダナ・ファーバーがん研究所の研究員が、がんサバイバーシンポジウムで報告したとの事だ。

「がんは患者さんだけの問題ではなく、家族・友人にも影響がある」ことを調査したものだ。乳がんに関わらず、大半のがん患者の場合、家族の生活や心理状態に大きな影響があるので、多くのパートナー(家族)が不安を抱えるという報告は特段新しいことでもない。しかし、若い女性にとって乳房を失うことは精神的な負担も大きいし、がんの再発に対する不安も大きい。乳房切除を回避することが、時として、命の代償を払うことにつながりかねないので、家族、特に、パートナーの支えが絶対的に必要となる。そして、白衣を着た詐欺師の甘い囁きに決して騙されてはいけない。また、米国においては負担が桁外れに大きい医療費も頭の痛い問題だ。さらに、小さな子供がいる場合、自分やパートナーの闘病と共に、子育てへの負担も大きな課題だ。

この調査に戻ると、調査に回答した人の93%が白人とかなり偏っている。そして、94%がフルタイムの仕事を持ち、78%が大学卒、約75%18歳未満の子供と同居している。不安のため、置かれた環境に適応できない例として、患者と別れようと考える、飲酒量が増える、問題を他人にせいにする、乱暴な行動をするなどが挙げられていた。このような行動は、一般の夫婦でもよくあることなだが、記事はこれらの頻度が一般家庭の2倍と紹介していた。それぞれの詳細や頻度、あるいは、不適切な行動のレベルが示されていなかったので、パートナーが乳がんと診断された(+治療を受けた)ことが、どの程度有意に行動に影響を与えたのかどうかは不明だ。

しかし、この種の研究は非常に大切だと思う。特に若年のがんは、遺伝的な要因が大きいと考えられるので、その観点だけでも、患者さんだけでなく、兄弟姉妹、子供も同じ遺伝的素因を持つ可能性を考えた対応が必要だ。がんに限らず、家族が闘病しているという状況は、程度の差はあっても、患者さん以外のメンバーにも精神的な負担、経済的な負担、肉体的な負担を強いることになる。当然のことだが、家族や友人が患者さんの闘病を支えることは必要不可欠だ。

医療費の増加を抑える議論は重要だが、重篤な疾患を持つ患者を支える家族を精神的・経済的に支援するような仕組みも重要だ。しかし、これは医療関係者だけに課せられた課題ではない。多くの医師や医療関係者は、限界を超えた努力を日々重ねている。患者や家族が医師や医療関係者と健全な人間関係を維持するためには、医師などの負担を軽減することを真剣に考えなければならない。また、夫の育児休暇は広がってきているようだが、重篤な患者さんを看病しているような方に対する配慮も重要だ。社会の仕組みとして、医療はどうあるべきかを考えなければ、日本の医療の明日はない。