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オバマケア法案廃止?+医薬品貿易赤字2兆円超

医療(一般)

今日の「New England Journal of Medicine」誌に「Repealing the ACA without a Replacement — The Risks to American Health Care」(オンラインでは16日公開)というタイトルの論文が掲載されていた。ACAとは“Affordable Care Act“、通称、オバマケア法のことである。著者はオバマ前大統領(オンラインでの公開時には現職大統領)自身である。共和党は春までにオバマケア法を廃止にする方向を公表しているが、それを憂慮したものである。

 

この論文は、代替案を用意することなく、この法律を廃止にした際の社会的混乱を指摘している。この中で、オバマケア法案は医療の質を向上しつつ、医療費の増加率を抑えたと述べていた。日本では保険収載されれば、国内どこでも、同じレベルで治療を受けることができるが、米国では加入している保険ごとに、保険でカバーされる医薬品が決まっているため、FDAが承認すれば誰もが保険でカバーされるわけではない。

 

最大の問題は、people with preexisting conditions may fear losing lifesaving health care that may no longer be affordable or accessible”とあるように、すでに何らかの病気に罹患している場合には、保険加入を拒否されたり、保険料が高額になる可能性があるのだ。この観点で見れば、日本の医療保険制度は実に素晴らしいものだ。日本人は、空気が存在しているのと同じレベルで、医療保険の存在を当然のものと考えているのかもしれないが、米国に住んでみると、日本の医療保険制度は信じがたいほどに充実しているのだ。私は、シカゴに来て5年間、病気で病院やクリニックのお世話になっていないが、歯科医を受診するたびに日本の制度との格差を意識せざるを得ない。代替案のない状況で、オバマ法案の廃止だけを先行することには、共和党内でも躊躇する声があり、このまま法案廃止だけ決定されるのかどうか不透明な情勢だ。

 

そして、日本の医療保険制度に大きな影響のある、日本の2016年度の医薬品貿易収支について紹介したい。財務省から、2016年度の貿易統計速報値が発表された。日本全体の貿易は黒字総額が4741億円であるのに対して、医薬品は22759億円(輸出4901億円、輸入27660億円)の赤字である。原油や粗油の輸入額が55340億円であるので、医薬品の輸入額は、原油の半分と同じレベルの額に達する。図は1988年以降の医薬品の輸出入の推移を示している。前年度に比べれば少し改善しているものの、2年連続で貿易赤字額2兆円を超える状況である。7年連続の1兆円を越える輸入超過である。この統計に個人で並行輸入しているものが含まれているかどうかわからないが、もし、含まれていないなら、この額はさらに膨らむ。

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日本の医療費は約40兆円であるので、医薬品の輸入額は7%近くになり、医療費の7%が医薬品代として海外に流出していることになる。問題は、このままの状況が続いても、医療保険制度を維持することができるかにかかっている。薬剤費は総医療費の約4分の1に相当しているので、「必要な薬剤を、必要としている患者さんに届ける」というコンセプトが臨床現場で確立されれば、医療費の増加を抑制するに違いない。

 

特に、抗PD-1抗体など効果があると騒がれているが、70-80%の患者さんには無効であり、世界全体で考えると数兆円もの薬剤費が無駄に使われている状況だ。適応となるがん種が広がれば広がるほど、救われる患者さんが増えることにつながるものの、その一方で全く効果がなく使用されるという無駄が広がる。高額療養費制度がある日本では、無駄の大半を税金で賄うことになる。これらが、医療保険制度を圧迫し、保険制度を破綻に導くことにつながる。

 

医療も安全も、決して対価を払わずに得られるものではない。米国の核の傘の中で、全く非現実的な非武装議論をしたきた人たちも、メキシコに対して起こっている現実を見れば、もはや、綺麗ごとでは済まなくなっている事態を否定できないだろう。誰もが選挙キャンペーンで終わると思っていたことが、現実の世界で起きようとしている。もし、日本から米軍が撤退して、力の空白が生まれればどのような事態が生ずるのか、考えると恐ろしくなる。医療も同じだ。きれいごとでなく、国民が医療の現実を見据えて議論すべき時なのだと思う。

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若い乳がん患者パートナーの心理状態?

医療(一般)

シカゴは1日だけ晴天で異常に暖かい日があったが、翌日から、また、どんよりとした気持ちが落ち込むような天気が続いている。プレシジョン医療を推進するために、日々、仕事に追われて疲れているので、せめて天気くらいはすっきりして欲しいと思うが、今週一杯は太陽を目にする事はなさそうだ。気温は比較的高いが、この曇天続きは勘弁して欲しい。

Forbes40歳未満で乳がんの診断を受けた患者(ステージや受けた治療についての説明はなし)のパートナーの心理状態に対する意識調査に関するニュースがあった。調査に回答した289名の女性乳がん患者パートナー(284名は男性、5名が女性)の42%が何らかの不安を抱えているというものだった。ボストンのダナ・ファーバーがん研究所の研究員が、がんサバイバーシンポジウムで報告したとの事だ。

「がんは患者さんだけの問題ではなく、家族・友人にも影響がある」ことを調査したものだ。乳がんに関わらず、大半のがん患者の場合、家族の生活や心理状態に大きな影響があるので、多くのパートナー(家族)が不安を抱えるという報告は特段新しいことでもない。しかし、若い女性にとって乳房を失うことは精神的な負担も大きいし、がんの再発に対する不安も大きい。乳房切除を回避することが、時として、命の代償を払うことにつながりかねないので、家族、特に、パートナーの支えが絶対的に必要となる。そして、白衣を着た詐欺師の甘い囁きに決して騙されてはいけない。また、米国においては負担が桁外れに大きい医療費も頭の痛い問題だ。さらに、小さな子供がいる場合、自分やパートナーの闘病と共に、子育てへの負担も大きな課題だ。

この調査に戻ると、調査に回答した人の93%が白人とかなり偏っている。そして、94%がフルタイムの仕事を持ち、78%が大学卒、約75%18歳未満の子供と同居している。不安のため、置かれた環境に適応できない例として、患者と別れようと考える、飲酒量が増える、問題を他人にせいにする、乱暴な行動をするなどが挙げられていた。このような行動は、一般の夫婦でもよくあることなだが、記事はこれらの頻度が一般家庭の2倍と紹介していた。それぞれの詳細や頻度、あるいは、不適切な行動のレベルが示されていなかったので、パートナーが乳がんと診断された(+治療を受けた)ことが、どの程度有意に行動に影響を与えたのかどうかは不明だ。

しかし、この種の研究は非常に大切だと思う。特に若年のがんは、遺伝的な要因が大きいと考えられるので、その観点だけでも、患者さんだけでなく、兄弟姉妹、子供も同じ遺伝的素因を持つ可能性を考えた対応が必要だ。がんに限らず、家族が闘病しているという状況は、程度の差はあっても、患者さん以外のメンバーにも精神的な負担、経済的な負担、肉体的な負担を強いることになる。当然のことだが、家族や友人が患者さんの闘病を支えることは必要不可欠だ。

医療費の増加を抑える議論は重要だが、重篤な疾患を持つ患者を支える家族を精神的・経済的に支援するような仕組みも重要だ。しかし、これは医療関係者だけに課せられた課題ではない。多くの医師や医療関係者は、限界を超えた努力を日々重ねている。患者や家族が医師や医療関係者と健全な人間関係を維持するためには、医師などの負担を軽減することを真剣に考えなければならない。また、夫の育児休暇は広がってきているようだが、重篤な患者さんを看病しているような方に対する配慮も重要だ。社会の仕組みとして、医療はどうあるべきかを考えなければ、日本の医療の明日はない。

がん医療を患者さん主導で動かす時だ!

医療(一般)

昨日は、突然、晴れ上がって気持ちがよかったが、今朝は乳濁色の霧に包まれている。窓の外の景色からは完全に遮断されている。昨日は、最高気温が16度まで上昇した。もちろん、華氏ではなく、摂氏でだ。平均最高気温がマイナス2度、過去最高気温が5度の状況で、最高記録を一気に11度の更新する異常な高温だ。南に面している我が家は、暖房を切っても、夏のような暑さだ。

 

しかし、米国の政治の世界はブリザード状態だ。まさに、予測不能の世界に突入した。報道官は、最初のプレスカンファレンスで、メディアの不正直さを罵るように批判していた。気に入らなければ10倍返しの様相だ。式典参加者数など、真実は一つのはずだが、何がフィクションで、何がノンフィクションなのか頭の中が混乱してしまいそうだ。私はメディアの不正直さを体験してきたので、自分の都合のいいように情報操作する輩がいるのは知っているが、新政権の既成メディアとの全面対決は社会に大きな錯覚と困惑をもたらすであろう。

 

さて、がん医療の話だが、先週は3人の患者さんやその知人から、がん医療に対する切実な問い合わせがあった。(1)日本の保険医療でできる標準医療のこと、(2)日本で追加的にできること、(3)米国で追加的にできること、(4)新たに試みられるであろうことなどの情報を提供した。(2)は自費診療として、多額の自己資金が必要だ。(3)(4)は説明可能だが、日本の患者さんにはアクセスは難しい。

 

がん細胞の遺伝子異常を調べれば、保険適応の有無にかかわらず、その患者さんに会った分子標的薬剤は見つけられるだろう。しかし、それでカバーできる患者さんは非常に限定的だ。米国のように臨床試験が多数実施されていれば、対象患者さんの割合は、少しは広がるだろうが、日本ではそうもいかない。ましてや、遺伝子を調べてもらうこと自体が容易ではない。ゲノム・遺伝子に限らず、調べれば新しい道が開けるにもかかわらず、国も研究者のコミュニティーも、患者さんを向いていないのだ。

 

永田町・霞が関の怠慢もある。この世界に住む人たちは、国家における医療の重要性をかなり過小評価してきたように見える。今は前職となったが、バイデン副大統領のがんの分野における専門的な知識に並ぶことのできる政治家は皆無だ。一般社会から隔絶された、学会という名の閉ざされた空間でふんぞり返っている人たちの責任もある。そして、必要であるにも関わらず、その声をしっかりと届ききれなかった患者団体の組織の在り方にも問題があると思う。米国の患者団体や学会は、大きな圧力団体となって、政治に対して、がん医療の推進に圧力をかけている。日本では3人に一人ががんで亡くなっているのだ。今のようなレベルのがん対策でいいはずがない。

 

日本では、米国に比して官僚組織の力が強いが、今の霞が関に、国のために体を張って「がん対策は大切だ」と政治家にものを言える人がどれだけいるのか疑問だ。安定した政治環境にある今が、がんの研究開発・治療体系を大きく変え、そして、それを医療全体の変革に変えていく最初で最後のチャンスだと思う。私も日本という国のために最後のご奉公ができるように努力するが、是非、患者団体の方々が力を結集して、国を大きく動かすことを願っている。

 

トランプ大統領への評価は別にして、彼は「we are transferring power from Washington, D.C. and giving it back to you」と言った。がん医療をがん患者さん主導で動かす時だと強く思う。

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日中の若者の意識差

医療(一般)

シカゴは、まるで日本の梅雨のような鬱陶しい天気が続いている。しばらく、輝くような太陽を見ていないし、今後一週間は期待できないようだ。寒さに弱い私には、最近の気温はウエルカムだが、まるで、橋幸夫さんのシトシトピッチャン「子連れ狼」の世界だ。

 

一昨日、中国のベンチャー企業iCarbonXの若者二人が訪ねてきた。この企業に関しては、先週Nature誌(http://www.nature.com/news/chinese-ai-company-plans-to-mine-health-data-faster-than-rivals-1.21258)に取り上げられている。設立からわずか15ヶ月で、400億円の資金を集め、人工知能の活用を目指している。Nature誌にはiCarbonXに対する批判のコメントも紹介されている。不安に立ちすくみ、前に進むことを躊躇するのか、自信を持ってゴールを目指して一直線に突き進むのか、価値観の違いだと思う。挑戦しなければ、決して何も変わらない、何も生まれないことは確実だ。

 

最近、日本の人たち、特に若者と話をして感ずるのは、このチャレンジ精神の欠如だ。彼らは、高いゴールを設定して、たどり着くための課題を分析し、その解決策を考えようとしない。前に進みたくない理由や言い訳をクドクドと述べるだけだ。今回訪問してきた二人と長時間話をして感じたのは、ポジティブな発想だ、私が課題を突きつけても、それにへこたれることなく、解決策を跳ね返してくる。自分たちが世界をリードするのだという意識が伝わってきた。

 

日本の企業の人に話しても、自分が責任を取らされないことが最優先だ。「何もしなければ失敗しない」「そうすれば責任を取らされることもない」を座右の銘にしている人たちばかりだ。海外への投資へは寛容だが、日本への投資は非常に限局的、限定的だ。ベンチャー企業というのは、名前が示すように、冒険をするための企業だから失敗を恐れていては絶対にできない。冒険の先に、自分の夢見る世界が開ける可能性があるから、リスクを冒して船出するものだ。

 

米国では一度や二度失敗しても、失敗体験をちゃんと分析できるような人には、再度、再々度の挑戦が許される。日本は結果がすべてだから、一度失敗すると、その人の人生が終わってしまうことが多い。研究や臨床試験も同じだ。改良に改良を重ねて、今日に至ったキメラ抗体受容体T細胞治療法など、日本では絶対に日の目を見なかっただろう。プロセスを評価し、改善の余地があるかどうか、それを評価する人材も、時間もない状況から何も変わっていないのだ。

 

私は、がん患者に対して標準療法を提供できれば、医師として十分だと考えている人たちを批判し続けてきた。しかし、新しいことに挑戦できないのは、医師だけの責任ではない。第1に、挑戦しようと思っても予算がない。医療保険の枠からはみ出ると不正請求になってしまう。そして、何よりも失敗するとメディアの餌食になる。失敗しなくとも、メディアの歪んだ正義感で、事実を捻じ曲げられて足を引っ張られることもある。

 

しかし、中国の二人を通して、改めて、挑戦する気持ちを呼び起こされた。現状のままでいいはずがない。現状を打開するには、患者さんや家族と歩調を合わせて、患者さん自身が望む新しい医療への挑戦をわれわれが後追しする形で進めていくべきだと思う。3月の帰国時に、まず、一歩行動を開始したい。

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医療の変革につながるネットワーク構築

医療(一般)

前回のブログを受けて、複数の患者団体の方から連絡をいただいた。3月・6月の帰国にあわせて会合に参加するなど、積極的に前に進めて行きたい。小さなグループからでも地道に活動を開始したい。背負う荷がますます重くなるかもしれないが、ここは踏ん張って一歩でも、半歩でも足を進めるしかない。

いろいろと考えをまとめるために、かつて作成した資料を振り返って眺めていた。そして、2007年、10年前に作成した資料が目に留まった。ある企業と、日本の医療をどのように変革すべきかを議論していた際の資料である。10年前に纏めたものとしてはよくできているではないかと、一人自慢の誉め手なしだ。下記が、キーコンセプトとして掲げたものである。

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次は、具体的に進めるべき課題で、下記のようにまとめていた。f:id:ynakamurachicago:20170117023953j:plain

(1)は今では、人工知能と名を代えて研究が進んでいる。(2)も、ようやく、国内での整備が進みつつある。(3)も、人工知能と呼ぶべきかどうかは別として、エラー回避のための、IT技術の導入が進みつつある。(4)は日本医師会が鍵である。「かかりつけ医」ではなく、「健康管理医」のような形で、開業医の役割が広がっていけば、ヘルスケアが一気に進む。このためには、病気になってから医療保険が働くのではなく、病気予防に対しても保険がカバーできるような制度の変革が必要だ。(5)も、結局は、病院で利用しているシステムの互換性の問題だが、画像の形で診療情報が管理できるようにすれば、あとは、患者さん、一般国民の意識次第だ。

3つ目はメディカルレコード(健康診断情報・診療情報)を患者さん自身が管理する際の利点・欠点をまとめたものだ。スマートフォンに保管する事は難しくないし、クラウドの保管して個人認証システムで医療機関でアクセスする方法もある。これだけ、ITインフラが進めば、個人情報保護さえ留意すればいくらでもできる。健康診断の見落としなどに対するチェック機構にもなるだろうし、大規模データベースを患者さん個人の参加型で進めることもできるだろう。f:id:ynakamurachicago:20170117024013j:plain

かつて、「俺の患者に手を出すな」と脅してきた、前近代的な医師の姿勢にあきれ返ったことがある。患者さんの情報は、患者さん自身に属すべきものだ。患者さんも、自分のため、同じ病気に罹るかもしれない家族に役立つなら、一緒に進めるといった気持ちではなく、われわれの子供、孫、ひ孫の世代に貢献するための気持ちを統合していくことが大切だと思っている。もちろん、「日の丸」が世界中の健康を守るシンボルとなれば、本望だ。

ynakamura@bsd.uchicago.edu

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がんを治癒させるために一緒に行動を!

医療(一般)

先週の寒波はどこかに消え去り、雪ではなく、雨が続いている。来週後半の予想気温は、東京と全く差がない。昨晩は雪がほんの少し降ったが、明日には消えるだろう。今週末から、来週にかけて重要な会議が続くので、今週は資料作りで忙しい。人生最後の勝負に挑むための準備で、精神的には充実している。周りをねじ伏せてでも、前に進むしかない。

そんな中、消化管神経内分泌腫瘍に、またひとつ、新しい治療法が加わった。今日の「New England Journal of Medicine」誌に、「Phase 3 Trial of 177Lu-Dotatate for Midgut Neuroendocrine Tumors」という第3相試験の論文が掲載されていた。Dotatate(ドータテート)とはホルモンの一種であるソマトスタチンの類似物質であり、ソマトスタチン受容体に結合する。今回の対象は、このソマトスタチン受容体を産生している神経内分泌腫瘍である。177Luとはルテチウム(Lutetium)の放射線同位体であり、半減期が約60日で、安定体(原子量175)になる際に、ベータ線とガンマ線を放出する。もちろん、私の記憶にはない原子番号だ。イッヒ、リーベ・・・・・・と原子記号を覚えたが、その時には、こんな大きな原子番号があったのか????

 

今回の治療法は、ソマトスタチン類似物質を運び屋にして、そこにルテチウム177を結合し、がん細胞のソマトスタチン受容体を介して、この放射性同位体をがん細胞内に届け、がん細胞内で放射線治療をするという原理である。われわれは滑膜腫瘍に特異的な分子であるFZD10の抗体を作成し、これを運び屋として、ベータ線を出す90Y(イットリウム90)という放射性同位体を結合させ、90Yをがん細胞内に届けるのと同じような仕組みだ。抗体やホルモンなどを利用して、がん組織内に放射線同位体を蓄積させ、これから放射線を放出させて、効率的に放射線治療を行うのである。

 

合計229名の患者をランダムに2群に分けた結果、20ヶ月での無増悪患者(腫瘍が大きくなっていない患者)の割合は、コントロール群で10.8%であるのに対して、177Lu-Dotatate群では65.2%であった。腫瘍縮小率は、コントロール群3%に対して、177Lu-Dotatate群では18%であった。中間解析時点での死亡していた患者数は、コントロール群26名に対して、177Lu-Dotatate群では14名であった。グレード3・4の好中球減少症、血小板減少症、白血球減少症は、177Lu-Dotatate群でそれぞれ、1%、2%、9%の頻度で認められたが、コントロール群ではゼロだった。

 

その臨床的有効性については疑問の余地はないと私は考えるが、日本のメディアなら、「副作用が問題だ」と騒ぐかもしれない。彼らの座右の銘は、「副作用は危険だ。座して死を待て」なのだろう。患者さんや家族の気持ちに寄り添っているつもりなのだろうが、がんを克服するには、何が必要かを全く理解していない。

 

日本でがん医療を変革する大きな流れを作るためには、患者さんたちとの連携が不可欠だ。今年の目標の一つはこれだ。「がん患者に生きるための希望を」などというコメントは封印して、もう一段上の目標、「がんを治癒させる」ために一緒に闘って行きたい。心ある患者団体の方は、是非、連絡してきていただきたい!

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1回の注射で6ヶ月コレステロールをコントロール!?

医療(一般)

今年も一週間が経過した。時間の流れがさらに速く感じられる。シカゴは、最高気温がマイナス二桁の日が続いて、冷凍庫の中にいるようだ。それでも、3日前には、運動不足を避けるために、歩いて通勤したが、正面から風を受け、鼻水タラタラで、翌日はさらに冷え込んだのであきらめた。アパートの1階には運動器具がいくつかあるのだが、なんとなく苦手で、昨日は階段登り、今日は水泳でカロリー消費・体力維持に努めた。雪は依然としてまったくないが、近くの湖面はすでに氷で覆われている。科学博物館裏の二つの池は、完全に氷で覆われ、スケートができそうだ。

 

そして、今日は、ずぼらな人に適した、高コレステロール症を治療するための画期的な治療法についての紹介だ。今週の「New England Journal of Medicine」誌にsiRNAの皮下注射を1回すると、LDLコレステロールが少なくとも180日間、半分程度に低下させるという論文が掲載されていた。siRNA は、遺伝子の働きを抑える技術で、特定の遺伝子の働きを抑えることができる。

 

siRNAにグルコサミンの1種を結合させることによって、肝臓の細胞に効率的に届ける方法だ。一般的にはRNAは血中で速やかに分解されるが、分解されないように少し形を変えたものを利用していた。siRNAを利用してがん細胞の増殖に必須の遺伝子の働きを抑えると、がん細胞を殺すことができるが、実用化には至っていない。狙ったがん細胞にだけ、効率よくsiRNAを届ける方法が難しいためだ。

 

今回の論文ではコレステロールの産生に重要なPCSK9という遺伝子の働きを、肝臓の細胞で抑えることによって、1回の注射で、最低でも約6か月間コレステロールの低下を維持できることを示したものだ。有害事象として、軽度の咳・筋肉痛・咽頭炎・頭痛・背部痛・下痢があったようだが、治療と関連するかどうかは不明だ。毎日薬を飲み続けるのか、半年、あるいは、それ以上の間隔で、皮下注射を1回受けるのか、の選択を迫られたら、どちらを選ぶだろうか?私なら、毎日、薬を飲み続けるのは面倒だし、歳のためか、飲んだのかどうかわからなくなる時があるので、注射の方が楽なように思う。ただし、高脂血症はないので、現時点では不要だが。

 

それにしても、治療技術の進歩は目覚ましい。諦めないで継続するのは精神的にも大変だし、資金的にも大変だ。といって、それを嘆いてばかりいるのは、今年は止めにした。自分たちで頑張ればいいのだ。倒されない限り、逆風でも、鼻水を垂らしながらでも、前に進むしかない。しかも、物乞いのようにお上にお金をねだるのではなく、自分のアイデアで、自分の力で資金を集めて頑張ればいいのだ。集められなければ、引退。単純な話だ。

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